斉藤さん

もう10年も前に辞めた会社で好きだった人の事など思いだし、ボンヤリしてしまった。斉藤さん(仮名ではない)は、50過ぎの妻も娘もいる男の人だったけど長く片思いしてた。休憩時間には、自分から話題を振るような人で、聞くともなしに聞いてると「古い映画の中では犯人は必ず国境を目指すんだよねー」なんて他の人があまり興味持たなそうな事も楽しそうに話してるのが良かった。ヘビースモーカーで、タバコに火をつける仕草に哀愁があって、古い映画の中の男の人みたいだった。他の女の子達より格段に歳くってる陰気な事務員である私にも、分け隔てなく優しかった。ほとんど海外出張で居なかったけれど戻ってきてる時は、朝礼の時は、必ずにじり寄って隣に陣取った。(ストーカーか)
私は、もう自分など生きてても仕方ないような気分になることが多く、斉藤さんなら情に流されて一緒に心中してくれるかもしれないなどと空想してた。一度、年賀状を出した時、奥さん手書きのきれいな文字で返事がきて、あまりうれしくなかった。
今、どうしてるだろ。プライベートな事は何も話さなかったし、とっくに忘れ去られてるだろうけど、思いだしてると少し切ない。
(自分のことが)

問わず語りであります。