「もののたはむれ」

松浦寿輝 著「もののたはむれ」ぱらぱら読み返す。風変わりなオカルト風短編ばかり数十編のこの文庫本をいつも目に付くところに置いてる。表紙の伊藤若冲の植物絵も美しい。乾いた文体という言い方があるけれど、この作者の文章ほど湿っぽい気分にさせるものはない。
文章でも風景でも人の声でも、湿り気のあるものがよい。水辺の風景とかちあきなおみの歌声とか、湿度が人の心を慰めてくれる。湿り気があってひんやりしたものが良い。湿り気+温もりは雑菌の温床。その雑菌の温床の中で豊かで妖しい夢を見てるようなこの短篇集が、けれど私は何より好きなのダ。