思い出

21才の時に一緒に一ヶ月ほど働いた女の人のことをよく思い出した。ほっそりしたキツそうな美人だったけど、思いやりのある人だった。魅力的な人だったので、同じ職場のあまり見栄えのしない年下の男の人と付き合ってると知って「へぇ〜」と思った。彼氏だった人は地味だけどしっかりした感じの人で、二人の間は職場の公然の秘密だった。彼女は私と入れ替わりに退職する事になり、その後の消息は風のうわさで耳にしたものばかり。何年も付き合っていたのに、転職先で知り合った人とすぐに結婚して東京に行ってしまったこと。何年か経って東京まで訪ねて行った元同僚の女の子から、もう子供も大きくなって幸せそうで、マンションの窓からは海が見えるんだよと教えてもらったこと。その後しばらくして彼氏だった男の人が信じられない若さで亡くなってしまったことなど、若かった私にはいろいろ思わせられることが多かった。真剣であるのは、悪いことであるはずないのに、真剣でなければもっと長く生きていたろうになどと思った。上手くいった彼女と上手くいかなかった彼氏と並べて思ってみたりしたけど、誰が幸せで何が不幸かなど、他人に推し量れるものではないと今なら思う。今、確かに言えるのは、夏の赤い袖なしのワンピースで送別会に来た彼女が綺麗だった事と、それをどんなにいとしく思ってるか分かるような彼氏の様子だけ。